絵本文化推進協会
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スペシャル対談「中井貴恵さんにお話をうかがう(後半)」

NPO法人 絵本文化推進協会
理事長 小峰紀雄

中井貴恵さんにお話をうかがう(前半)はこちらからご覧ください。

読み聞かせの会で使う
大人にも深いメッセージを与える本

小峰:さきほど、子ども読書年の話が出ましたが、出版や図書館の関係者は、1992年くらいからスタートしています。その当時、出版業界の状況がかなり悪く、このままだと本を作れなくなるかもしれないという危機感がありました。出版の原点に立ち返って、子どもが本と出会う場所、つまり、子どもの読書環境をつくる運動を起こそうと考えました。その中で学校図書館の整備充実が重要だと考えました。さらに学校図書館には、子どもと本の橋渡しをする先生が必要だということも同時に感じていました。国立の国際子ども図書館の設立も、このような民間の活動の中から提言されました。

中井:本が好きな子は喜んで図書館も利用しますよね。

小峰:その通りですが、子どもと本との出会いには、橋渡しをする良質な大人の存在が欠かせないと思っていました。その頃、中井さんの読み聞かせのことを聞いて、すばらしい活動を実践されている方がいると感心しておりました。

中井:(笑)

小峰:読み聞かせの現場では、親子が多いのですか?

中井:普段は小学校が多くて、小学校の場合は全校児童いっぺんに行います。

小峰:1年生から6年生までですか?

中井:そうです。入りきれれば体育館で行います。だから、大きい絵本が必要で、現在の形になったわけです。あと、私たちは子どもだけの読みきかせの会は行いません。 かならず大人も呼んでもらって、大人と子どものための読みきかせの会という形でずっとやってきました。というのも、私自身が『つりばしゆらゆら』からたくさんのことをもらったように、大人にも何か気づかせてくれることがあるはずだと思うのです。すべての絵本とは言いませんが、そういう絵本もたくさんあると思って読んでいます。

小峰:いろいろな絵本がありますからね。

中井:ええ。

小峰:絵本の世界は多様だし、出版社は、まだまだ工夫して本をつくらなければいけないということですね。

中井:完全な子ども向きの絵本もたくさんあるとは思いますが、私たちの読み聞かせの会で使っている本は、大人の人たちにも深いメッセージを与えるものを取り上げているつもりです。実は、最近の観客の7割から8割が大人の方だったりします。

小峰:大人も涙を流して、聞き入っていますね。

中井:そう。

子どもの心のなかにしみ込む
実感で読む、開いて読む、手で読む、五感で読む

小峰:18年間もやっていて、聞き手側の変化はありますか?

中井:この18年間で本当にいろいろなことが変わったなあと思います。 『ちいちゃんのかげおくり』という本を取り上げて、18年前は、「今日、学校に来られるのも日本が平和で、戦争しない国だから、こうやって楽しく学校に来られるんだよ」、「でも、みんなが学校で遊んでいるときに、世界のどこかでは戦争をしていて、ちいちゃんやお兄ちゃんみたいに、戦火のなかを逃げまどっている子どもたちがいるということを忘れないでね」と胸を張って言えましたが、いろいろなことが変わってくると「この子たちの未来はどうなるのかな?」とすごく不安に思います。
戸田和代さんの『きつねのでんわボックス』というお話があるのですが、自分の子どもを亡くしたきつねのお母さんと、電話ボックスに電話をかけにくる男の子の話なのですが、もう電話ボックスがありませんよね...(笑)。だから、子どもには、まず電話ボックスを知っているかというところから話をしなくてはいけなくなりました。「昔はね、外で電話をかけるときはね、10円玉を握りしめて、電話ボックスを探したんだよ」というと、子どもが「知っているよ、ガラスの扉がついているやつでしょ」と答えるわけですが、そこから話をしなければいけなくなってきているように、時代は変わっているのですよね(笑)
これだけいろいろなものがハイテクになって、私たちの手づくりの、いくら大きいといっても、紙をめくるだけの絵本が、子どもたちにどれくらい受けるのかなと思ってやりましたけど、これがなかなか捨てたものではない、と思うほど身を乗り出して子どもたちは聞いてくれます。だから、やっぱり子どもは、こういうものもが、基本的に、根本的に、好きなものとしてあるのだなあという安心感はあります。

小峰:それがないと、私たちは本を作れません。

中井:そうですね。

小峰:本というのは、実感で読む、開いて読む、手で読む、五感で読むことによって、子どもの心のなかに入ってゆく、ここを手放したら、本は作れなくなりますよ。

中井:先日、私たちの読みきかせの会に来た24歳の男の子からメールをいただいて、すごくいいことを書いてくれていました。子どものころ、学校で、私たちの読みきかせの会を観たことは覚えているが、大人になって改めて参加してすごく感動しましたと...。
感動したのはなぜだろうといろいろ考えると、絵本というのは子どものために書かれている本なので、余計なことが書かれていない。例えば、おじいちゃんと孫の話だとしたら、このおじいいちゃんは、何年生まれで、どこに住んでいて、何をした人か、どんな仕事をしていたか、退職して今に至るまでのことも書かれていないし、この孫は、幼稚園なのか、小学生なのかも書かれていない。すべて自分たちの想像で、この2人がどういう人かを構築できるわけです。言葉が少ない絵本ならではの、大人も、子どもも想像にゆだねられるところが、奥深さを生んでいるのではないかと思ったということが書かれていて、私たちも「なるほど」と納得しました。

小峰:いい言葉ですね。デジタル絵本を見たことがあるのですが、想像力の問題だと思いました。別の観点から言えば、紙に印刷された造型としての絵本が、デジタル絵本に比べて、どれほど読み手の創造力をひきだすことができるのかという問題だと思いました。

中井:私たちの読みきかせ会で作っている大型絵本も忠実に模写するというのが基本です。

小峰:つちだよしはるさんの絵も別の人が描いているのですか?

中井:はい、うちのメンバーが描いています。つちださんには、「ぼくよりうまい」って言われました。(笑) できあがったものを先生に見ていただいて、了解をもらうのですが、この瞬間が一番緊張します。

中井:先日、読みきかせの会を観ていただいた、いとうひろしさんからメールをいただいて、すごくいいことが書いてありました。「あまんきみこさんの本は物語の言葉だと、それはそれですばらしい。でも、ぼくが絵本に書きたい言葉は、いったいどんな言葉なのだろうか」とすごく考えていたというのです。その日は、いとうさんの作品も読ませていただいたのですが、最後に「音の力に嫉妬しながら、帰ってきました」と書いてありました。音楽もそうですが、言葉のもつ音の力にから嫉妬したと、書いてあったのです。
声にのせて言葉を伝えるということは絵本ではできません。作家の方は、文字として読んで、人に伝えたい言葉を選んでいるのでしょうが、私はそれを声に出して読んでいるわけです。「嫉妬した」というのは、文字を読むのと音で聞くのとは全く違った伝わり方だと思われたのでしょう。

小峰:絵描きの方は絵が先ですからね。

中井:だから、絵本の場合、言葉は平明で分かりやすくて少ない言葉で綴られているわけですよね。

小峰:そうですね。耳で聞く場合は、擬音も効果的ですね。宮沢賢治などは擬音が多いですね。

中井:宮沢賢治の本は、声にのせて読んで、はっきりわかることのほうが難しい(笑)。
読むのが本当に一苦労で、読むには読めても、聞いている相手に何と言ったのかわかるように伝えるとなると、相当に高度な技術がいるだろうなと思いました。

小峰:東北の風土から生まれた擬音だからじゃないですかね。

中井:そうですね。独特ですよね、創作した言葉もいっぱい出てくるし、本当に難しいと思います。

大人になっても持っている
ランドセルを背負っていたときの心

小峰:今年は何回くらい読み聞かせの会を行っているのですか?

中井:今年は70回くらいです。申込期間というのを設けていて、1月から3月までに申し込んでいただいたところに行っています。

小峰:読み聞かせや、これから読書活動を始める人たちもたくさんいますので、メッセージをいただけますか?

中井:私たちも最初は「こんなのは読み聞かせとは言わないよね」とずいぶん言われたものです。読み聞かせというのは、順にページをめくって読んで、しかも、抑揚をつけずに読む。抑揚をつけるとなぜいけないかというと、子どもが読んでいる人の顔ばかり見てしまうから、絵を見せなきければいけないからだそうです。でも、「そんな読み聞かせなんて、全然面白くない」と思ったのです(笑)。そもそも読んでいる人が楽しくない。だから、「正しい」読み聞かせとは、何だろうことになって、みんなで考えたのだけれどわからなかった。でも、子どもたちが喜んで「また来て!」とか、「もう一回読んで!」とか、「ええ、もう帰っちゃうの?」とか言ってくれることでいいのではないかと思うようになりました。

小峰:同じ場所に、何回も行くということがあるでしょう。「また来て!」という子どもたちやお母さんたちは、大勢いるのでしょうね。

中井:多いですよ。その声が「このやり方でいいんじゃない」という自信につなげてくれました。私たちは、私たちのスタイルを曲げないで、こうやって絵本の力を信じてやっていこうよ、ということで、ずっとこのスタイルでやっています。
その結果、18年前に始めたときの子どもは、もうみんな社会人になっていて、絵本をすばらしいと思ってくれる大人になってくれている。このことは実感としてあります。こんなふうに私が絵本に心を奪われたように「絵本ってすごい!」と思ってくれている人が増えたなっていう自負はあります。
私がこの会を始めて15年目の時に、子どもなしで、大人だけで、お酒を飲んで絵本を聞こうという会をやったことがあるのですが、あっというまに200枚のチケットが売れました(笑)。大人が絵本を聞きながら、お酒飲みながら、泣いたり笑ったりしているのを見ていて、「すごくいいなぁ」と思いました。

小峰:その人たちは、きっと子ども時代の記憶と重なるからなのでしょうね。

中井:そうですね。

小峰:きっと、大人になっても、心のなかに今も子どもが生きているからです。自分も、6歳のいたずら小僧が自分のなかにいて、なんかの拍子に出てきて、「おまえ、だめだよ、こんなことして」なんて自分で自分に言ってしまいます。

中井:ドリアン助川さんが、その会に来て新聞に記事を書いてくれたのですが、「見えないランドセルを背負った大人たちが」と表現してくれたことが、私はすごくうれしかったです。舞台から見ていても、大人たちが「ぴゅーっ」とランドセルを背負っているころに時間が戻っていくような、そんなことを感じました。やはり、みんな、大人になっても、ランドセルを背負っていたときの心はもっているのですよね(笑)。

世の中が変わっても、時代を超えて引き継がれる
美しさを感じる心や不思議に思う気持ち

小峰:大人のための絵本の会は、定期的にされているのですか?

中井:年内にもう一度やろうかと予定しているのですが...。

小峰:楽しいからまた来てくださいと言われて、一番行かれたのはどこですか

中井:私たちは、最初、世田谷区・大田区で始めたので、18年間、毎年行っている学校は、この地域に集中しています。でも、今は、東京都稲城市です。稲城市の小学校については、ほぼ全校から依頼がきます。一校で読み聞かせの会を行ったところ、隣の学校に評判が伝わって、バーッと広がっていった感じですね。

小峰:さっきの電話ボックスの話ではないけれど、時代が変わると、周りの景色は変わっていくけど、残るものは残るのですよ。

中井:同じところで泣きたいから、同じ話を何回も聞きたいのですよね。

小峰:世の中がいくら変わっても、人間の美しさを感じる心とか、不思議に思う心とか、時代を超えてあるのではと思います。

中井:そうですね。たとえば、これはパーフェクトなカレーライスだからどうぞと言われても、みんなが好きなわけじゃないのですよ。同じように、お芝居にしても、映画にしても、音楽にしても、全員が好きなんてものないですよね。だけど、そういうなかでも、大人も子ども楽しんで何か心に感じてくれるものを届けられたら私はいいなあと思っています。

小峰:もともと本は、多種多様に作られなければいけないと思っています。

中井:でも、こんなにいっぱい新刊本を出しているのは、日本くらいなのではないですか? 年間どれくらいですか?

小峰:子どもの本で、絵本から科学の本まで含めて、4,000点前後ではないですか。決して多くはないのでしょうが。

中井:そのなかで、なくなっていく本もあるし、重版がかかる本もありますよね。

小峰:ロングセラーと呼ばれる本は、子どもの本が多いですよね。でも30年読み継がれることは大変なことです。

中井:自慢ではないですが、私たちの読み聞かせの会では、30冊くらいの本が売れます(笑)。そんなことはありえないというので、わざわざ、出版社の人を呼んできて、恩着せがましく、見せたことがあるくらいです。私は、聞いてもらって、何をしてほしいといえば、家に帰ってまたその本をお子さんと広げて、今度はお母さんの声で伝えてほしいのです。 『ハナさん』という絶版になった本をやったときは大変でした。アマゾンで買ってくださいなんて言ったら、アマゾンでも在庫がなくなってしまいました。

小峰:子どもの作文を読む機会があるのですが、だいたい家族のことが多い。当然、お母さんのことが多いのですが、おじいちゃん・おばあちゃんも多い。死んだおばあちゃんに教えてもらった漬物の作り方で、今も漬けていますとか...。

中井:『きつねのでんわボックス』という作品も、子ぎつねが生まれると、お父さんきつねがすぐ病気で死んでしまい、お母さんきつね一人で子どもを育てる設定なのですが、子ぎつねは、どんどん大きくなるので、お母さんきつねは、全然悲しくなかった(笑)。この話をお父さんが聞いていると、ガクッときちゃいますね。長谷川義文さんの本でも「お父ちゃんは、何年も前に死んだけど、お母ちゃんと僕とお姉ちゃんは元気にやっています」というのが出てきます。
このあいだ読んだのは、『だいじょうぶ だいじょうぶ』という、おじいちゃんと孫の男の子のお話で、おじいちゃんと来ていたお孫さんもたくさんいました。

本が嫌いな子をおいてきぼりにしないで
「聞くことも読書なんだよ」と伝えたい

小峰:「読み聞かせ」と言いますか...。

中井:実は、私は「読み聞かせ」という言葉は嫌いです。ほかに適当な言葉ないから使っていますが、「読み聞かせ」といのは、すごい上から目線ではないでしょうか?

小峰:最近は「読み語り」というような言葉を使うようになってきましたね。

中井:本当にふさわしい言葉ってないですね。もう18年間、これでやってきたからしょうがないですけどね(笑)

小峰:(上野の森親子フェスタのチラシを見せながら)毎年、ゴールデンウィークに、上野公園で子どもの本のイベントを開催しています。今年は、出展出版社数は88社、約7,100タイトルを展示販売しました。 作家や画家も参加して、講演会やイベントも開催されます。来場者数は3万人くらいで、多くの人に本を知ってもらう場になればと考えています。子どもたちは、本が好きですし、本を読んでもらうことがとても好きですね。

中井:それはすごいですね。

小峰:では、そろそろ時間も来ましたので、最後にひとこといただけますか?

中井:本が嫌いな子をおいてきぼりにしないでください。そういう子もいるけれど、決して心が曲がっているわけではないので、その子たちをダメな子だと思わないで下さい。読み聞かせの立場からは、「聞くことも読書なんだよ」と伝えていければと思っています。もちろん、絵本文化推進協会のみなさんのご協力もいただきながら...(笑)。

小峰:もちろんです。本当に長時間のお話、ありがとうございました。

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